【スタッフ岡田】生き不浄地獄の境地、ここに有り。

2023年07月01日

2022年某月、最”汚”な現場があった。

事前情報では「1LDK」「ベッドの上で亡くなる」「ちょっとしたゴミ屋敷」、どうやら特殊清掃+ゴミ屋敷片付けという現場で珍しいことでは無く今まで幾度とそういった現場をやってきたので問題ない。ただ気になるコメントが文末に記載されていた。

「バルサン5個持参」

普段見積もり時に虫が飛散していたら当日中にバルサンを焚いて、もうそれで「お終い」である。室内の虫共は滅却され、我々が現場に入る時は精々運が良かった生き残り数匹が内界と外界の境界線を引くガラスという存在を理解できず狂乱にタックルを繰り返しているだけだ。故にバルサンを現場で使うことが少ない。

見積もり時に時間の余裕がなかったのだろうか。だとしても「5個」というあまりにオーバーキルな量が気になる。件の現場は1LDKの中でも更に小さい部類である。明らかに過剰だ。

添付された写真を見るに蝿の気配は無くリビングは新聞紙で大半が埋め尽くされているように見え、ベッド付近は物がごちゃごちゃしていて遺体痕等視認が難しい。現場で臨機応変に対応することが求められそうだ。

 なにか拭えぬ不安が立ち込める中、作業当日、現場到着した我々が最初に目にしたのは玄関の扉の上の曇ガラスに蠢く黒い影だった。無数の中指の爪程の黒い何かが犇めいていた。

「Gだ」

直ぐにその正体が頭を過ぎり、“バルサン5個”の意味を悟った。

実はこの仕事では意外にもゴキブリに遭遇しない。年に1~2回目にするかどうかでネズミや蝿のほうがよっぽどよく目にする。故に耐性が未熟なのは否めず、緊張が走る。

そしておそるおそる扉を開く。リビングまで続く廊下に埋もれたゴミに光が差し込んだその刹那、開きしドアの隙間から小ぶりなGが数匹壊れたラジコンの如く荒ぶりながら滑り出てきた。「うわっ」っと声を上げながら我々は不細工なタップダンスでそのGを躱し、落ち着いて顔を合わせて我々はこれから行う作業の深刻さを理解した。

最悪だった。隙間という隙間にゴキブリが犇めき、コロニーと化しているようだった。不思議と壁には貼り付いなかった。死臭は感じず、代わりに“土”の臭いがした。これは有機物が分解され尽くされたゴミが発する臭いである。

まずやることは一つ。バルサンだ。数に不足はない、火災報知器を止め、持参したすべてのバルサンを投擲し、ドアを閉じ封印した。みるみる白煙で室内が満たされていく。

あわよくば煙が晴れた時魔法のようにすべて消え去ってくれと願っていた。

数十分後、そんな願いも通じず白煙が晴れ無機質なゴミの山が無情に姿を表す。

そして肝心のゴキブリ共は・・・・

「・・・?」

という顔をしていた。

全く死んでない。ご健在。

というかむしろ奴らに異常を察され犇めき具合が悪化していた。

既知の通りゴキブリは強い。バルサンなんて屁でもないのだ。孤独死の現場でありながら蝿が一匹もいなかったのはこいつらが蛆を捕食しているのだろう。完全な頂点捕食者だ。

 そしていよいよ“片付け”を開始する。窓を取り外しベランダ側から直接リビングを攻める。

積み重なったように見えた新聞紙はやはり“蓋”であった。片付けられない状況の末期に見られる行動で、積み重なったゴミに新聞紙を被せて蓋をすることで”無かった”ことになるのだ。いやはやひいてはこちらとしても”無かった”ことになってほしいものだ。

ゴミの種類は新聞紙、空き缶、缶詰、栄養ドリンク瓶、コンビニ弁当箱を認め、「まぁまぁ良くあるゴミ屋敷」程度に思っていた。

しかし戦慄の瞬間は直ぐにやってきた。

日本酒の紙パックである。

手にとった瞬間、重さから飲み残しがあるなと思い中を確認した。

違った。

中に入っていたのは人の排泄物だった。

あーあ。

混沌ここに極まり。

脳が思考を放棄し始めていたが慌てて気を取り直した。

そう、ここの住人はトイレ付近にゴミを積み重ねて入れなくなったが故、尿意を催した際はリビングで空いた紙パックに用を足していたのである。

いや、まだいい。ここまでは理解ができる。特筆すべきは有ろうことかその中身入り紙パックを他の生活ゴミと一緒に部屋に溜め込んでいたのだ。しかもその紙パックの上に更にゴミを積み重ねている始末。つまり下の紙パックは潰れ中身が流出しゴミの下層はほぼすべて排泄物にまみれていた。そしてそのゴミ1つ1つにゴキブリがしがみついているのだ。

お分かりいただけるだろうか、この地獄を。

心のブレーカーを最低限まで落とし、ただひたすらゴミを袋に詰めていった。時々舞い上がる排泄物の臭いに嗚咽を抑えながら、黙々と手を動かし続けた。不思議と脳内では法楽太鼓が延々と鳴り響いていた。仏様も見守ってくださっていたのだろう。

そうして午後になるころには排泄物ゾーンは抜けていた。おそらく窓際を貯めておく場所と決めていたのだろう。ここからスピードも上がり、亡くなっていたベッドのエリア、つまり本来は手が引ける遺体痕エリアを片付けたが正直排泄物ゾーンの方がキツすぎて書くに足らぬ感情しか覚えなかった。

こうして2日かけなんとかゴミを搬出し、最後に畳を処分した。久々に日の目を見たであろう畳は赤黒く変色し、水分を吸って異様に重たく、不思議と悪臭は無く、何故か梅の香りがした。この梅の香が未だに印象深い。その後は取れる建具はすべて取り、清掃、消臭して作業完了である。作業完了後の部屋の有様は木柱むき出しでまるで解体工事中の様に見えた。

こうしてこの現場は幕を閉じた。

いかがだっただろうか、これは今まで片付けてきた現場の中で最も汚かった現場であるといっても過言ではない。本当に大変であった。

もし同じ状況だというご存命の方いらっしゃったら当社にご気軽にご連絡ください。

後日談だが大量のゴキブリを殆ど生きたまま会社に持ち帰った為。

現場終わってから2ヶ月間会社でゴキブリの目撃談が絶えなかった。尾を引きすぎである。

整理人 岡田 岡田とゴミ部屋  

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