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「下着は、女の人に見てもらえるかしら」。水に浸かった家の前で、そう言われた

2026年11月07日

「下着は、女の人に見てもらえるかしら」。水に浸かった家の前で、そう言われた
※ 画像はお客様のプライバシーに配慮し、実際の現場ではなくAIで作成したイメージです。

水に浸かった家の前で

2019年10月、台風19号。

会社としてボランティアで片付けのお手伝いに入りました。道路が茶色く濁って、どの家の前にも家財が積み上げられている。言葉が出ませんでした。

まず驚いたのは、重さです。

水を吸った畳は、大人4人がかりでようやく1枚。持ち上がらないのです。そして、いらないものだけを出すのではありません。水に浸かったものは、全部外へ出します。立派なタンスも、来客用の布団も、まだ一度も使っていないようなものも。

家の前にできた山は、普段私たちが扱う片付けの量を、はるかに超えていました。

その隣で

家主さんは、気丈に振る舞っておられました。

「ありがとうねえ」「大変でしょう」と、こちらを気遣ってくださる。ご自身の家が、そうなっているのに。

しばらく作業をしていたとき、その方が来られて、小さな声で言われました。

「下着は、女の人に見てもらえるかしら」

一瞬、分かりませんでした

すぐにスタッフを替えました。それはいいのです。

あとになって、ずっと考えていました。

あの状況です。家が水に浸かって、家財がぜんぶ外に出されて、これからどこに住むかも決まっていない。考えなければならないことが、いくらでもあったはずです。

それでも、その方が口にされたのは、そのことでした。

「ゴミ」にしてしまっていた

私たちは、あの山を「処分するもの」として見ていました。手早く、効率よく外へ出す。それが助けになると思っていました。

でも、あの山は、その方の暮らしそのものです。

タンスの中身も、押し入れの布団も、下着も。水に浸かった瞬間に「ゴミ」になったわけではありません。見ている側が、そう扱っただけです。

それから

遺品整理の現場でも、同じことが起きます。

ご遺族が「全部捨ててください」とおっしゃる。量も多いし、期限もある。こちらも早く終わらせたい。そうやって、手が速くなっていきます。

そのたびに、あの小さな声を思い出します。

言わない方のほうが、ずっと多いのです。気を遣って、言えない。だから、言われる前にこちらが考えなければいけない。

何が変わったか

劇的なことは、何も。

ただ、現場に入る前に、一度止まるようになりました。ここは誰の家か。この中にあるものは、誰のものだったか。

そして、女性のスタッフがいる日は、下着や衣類をそちらに回すようになりました。言われてからではなく。

それだけのことです。それだけのことを、あのとき教わりました。

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